「組み立てる」ことの魅力をー
プロモデラー北澤志朗・カーモデル作品集制作プロジェクト

ランボルギーニ・ミウラJ 情報の欠落を想像で埋める 北澤志朗

私が自動車の模型を作る上で、最も大切にしていること、それは「リアリティ」です。模型は実物を縮小して再現するものですから「リアルであること」が大切なのは当然のことです。

 しかし、工業製品として製造されている模型キットは、必ずしも実物の自動車とまったく同じに出来ているわけではありません。縮小することでサイズ的な制約から表現できなくなるディティールもありますし、製品として成立させるためにコスト的な制約から表現を諦めてしまったディティールもあります。

 モデラーはキットが持っているそれらの欠落を、自分の手で補っていきます。不足しているディティールを手作りの工作で追加し、模型を可能なかぎり実物に近づける。ただキットを組立てただけの完成品と、モデラーが作る作品の違いはそこにあるのです。

 その点で、非常に重要なのが資料です。実車のカタログや設計図面、整備手引書、雑誌記事、ネット上に存在する画像など、1台の模型を作るために多くの資料を蒐集します。その全てが模型作りの役に立つとは限りませんが、情報量が多い方が判断しやすくなるのは確かです。

 

 ランボルギーニ・ミウラJは、ハセガワ製のランボルギーニ・ミウラと同イオタの部品を組み合わせ、さらに膨大な改造工作を施して、ようやく完成しました。しかし、これを作る上で最も困難だったのは改造工作そのものよりも、実車の資料の蒐集でした。

 ミウラJはランボルギーニのオフィシャルなプロジェクトでは無く、社内の有志が集まった勝手連的なチームによって製作された、ミウラのレーシング仕様です。そのため、実際のレースに出走する機会は無く、プロジェクトは社主の意向で放棄させられ、実車は売却されてまもなく事故で焼失、現存していません。そんな事情から、画像資料はごく僅かしか無く、文章資料も「…といわれる」的な伝聞ばかり。

 あまりにも情報が少ないため、模型のディティールを決定するには、資料よりもむしろ想像力を駆使する必要がありました。そんな時に役立ったのは、長年にわたり自動車を見続けてきた私自身の記憶の蓄積です。資料だけでなく、実物の自動車を自分の目でどれほど数多く眺め、観察したか。それがあれば、小さな写真におぼろげに写っているリベットや溶接痕といったディティールの意味が理解出来るのです。

 直接目で見た記憶の蓄積こそが、想像の土台になるのだということに気づかされた…ミウラJはそんな忘れがたい1台です。

北澤 志朗

2018/06/17 14:13