上州の石仏を俯瞰する時、中毛や東毛には精密な彫技による観音や地蔵、庚申塔などが見られ、西毛から北毛にかけては、男女像の愛の道祖神が多い。また、山塊には山岳信仰の不動明王や山神が佇む。像達は上州の風土を背景に、総じて土の中から生まれたような鈍重だが愚直で土俗的なものが多い。そして、北毛には荒々しさや独創的な姿態、顔容を持つ、冥界を彷彿させる十王思想の一群が野に彷徨っている。
闇魔大王は厳格な威厳を表し威圧的に、冥途の渡し場の奪衣婆は不気味に嘲笑。祈る者や救いを求める者を冷酷に恫喝し、嘘や隠し事を見逃さず糾弾、容赦なく罰を下す勢威がほとばしる。優しさや温かさを持つ慈愛の石仏と表裏の恐ろしき一群である。
三輪途道さんから上州の石仏の魅力や特徴を聴かれた折、自然や風土・歴史、文化・人格や人流などにより生まれた、多種多様な石仏を誇る上州ゆえ様々に迷ったが、上州の山野にふさわしく、存在感の強い冥界の鬼婆を選んだ。以心伝心とでも云えばよいのか、三輪さんの人道、精神、感覚が嬉しく合致してくれ今回の仕儀となった。石は冷たいが温かく心が宿る、厳しさや怒りは怖いが本意。奪衣婆の本性を、丁寧に一体一体に触りながら受けとめようとする三輪さんの心眼は素晴らしい。
著書は素晴しく、久々に上州の魅力を感じております。読書の秋にまことに合った出版です。おめでとうございます。
金井竹徳(群馬石仏の会会長)