Yolniの物語が始まったのは、2016年にまで遡ります。
きっかけは、代表である私、奥出自身の過去の体験でした。 夜道で経験した、どうしようもない不安や恐怖。そんな原体験を胸に、「テクノロジーで、かつての自分のような想いをする人を一人でも減らしたい」という一心で、あるコンテストの門を叩きました。
スマートフォンと連携する、新しい防犯のアイデア。Yolniの原型である「しっぽコール」が生まれた瞬間です。
プロトタイプを手にデモを行うと、特に女性の来場者から「これ、本当に欲しい」「いつ買えますか?」という、熱のこもった声を数多くいただきました。
それは、この「夜道の不安」が、決して私だけの個人的な悩みではなく、多くの人が口に出せずにいる、切実な社会課題なのだと確信に変わった瞬間でした。 皆さんの声が、「これは、私たちがやらなければならない」という重い使命感になると同時に、この課題の先に、もっと素敵な世界を作れるかもしれない、という確かな光が見えた瞬間でもありました。
しかし、私たちの前に立ちはだかったのが、ハードウェアスタートアップにとって最大の難関、「量産の壁」です。
当時、3Dプリンタの登場で「ハードウェアスタートアップの時代が来た」と叫ばれていました。しかし、量産経験のない私たちにとって、それは決して簡単な道ではありませんでした。
精密な設計知識がなければ試作品すら作れず、信頼できる製造パートナーは簡単には見つからない。今思えば、無謀な挑戦だったのかもしれません。夢破れていくスタートアップを何社も見るたび、「日本のものづくりは、もう終わってしまったのか」という悲壮感に襲われました。
それでも、心の底から、ものづくりが好きだからこそ、私たちは諦めたくなかった。この手で、未来への希望の光を見出したかったのです。
技術的な問題は、次から次へと発生しました。なぜかすぐに電池がなくなる、アプリがクラッシュする。デザインもなかなか決まらず、納得のいく質感を出すために、エアブラシを学んで自宅のベランダで塗装を繰り返した夜もあります。
時には「日本は治安がいいから、こんなものいらないよ」と心ない言葉を投げかけられることもありました。その度に、統計データや自分たちで実施したインタビューの結果を見返し、「いいや、この日本でも、たくさんの人が声を上げられずに苦しんでいるんだ」と、当事者以外の方にも伝わるようにプレゼン資料を何度も作り直しました。
それは、技術的な問題だけではありませんでした。私たち自身も、Yolniを実現するためには既存の知識だけでは足りず、チームの誰もが新しいツールの勉強を一から始めるなど、常に未知の領域への挑戦の連続でした。
特にデザイン面で心を砕いたのは、誰も褒めてはくれない、けれど使う人が「気にならない」ように作り込む、細部のデザインです。自分たちで始めたプロジェクトだからこそ、どこまでも妥協できるし、逆に、どこまでも妥協しないこともできる。その終わりなき問答の繰り返しこそが、最も苦しく、そして尊い時間だったのかもしれません。
困難が訪れるたび、チームみんなで落ち込みました。それでも、メンバーの誰もが「Yolniは、きっと未来を明るくする」と信じて、励まし合い、学び合い、ここまで歩んできました。
Yolniは、たった四人の小さなチームです。ですが、この9年間、決して孤独ではありませんでした。数えきれないほどの出会いに、私たちは支えられてきました。
私たちの知識不足を、親身になって補ってくださった専門家の方々。インタビュー調査で、「今まで誰にも言えなかったんだけど…」と、辛い過去を打ち明けてくださった方々。
そして、会うたびに「販売はまだ?楽しみに待ってるよ!」と声をかけ続けてくれた、たくさんの友人たち。
Yolniは、私たちの製品であると同時に、皆さんの想いが乗った、みんなの希望でもあるのです。
この9年間で、世界は大きく変わりました。
女性の権利が再注目され、男性の性被害も広く認知されるようになり、法律も変わりました。コロナ禍を経て、私たちは孤独や健康への不安についても、社会全体で向き合うようになりました。
物理的な安全だけでなく、心の潤いや、外の世界や人との関わりがいかに大切か。その度に、Yolniを届けたいという想いは、より強く、より大きなものになっていきました。
Yolniは、単なる防犯デバイスではありません。 変化する時代の中で、誰もが自分らしく、心穏やかに、そして時には冒険して人生を楽しめるように。そんな一人ひとりの毎日に寄り添う、小さなパートナーです。
私たちの9年間の想いの結晶を、ぜひ、あなたの手で受け取ってください。