これまで3回に分けて「あと、何日。のアイデアが生まれるまで」と題して、アイデアやデザインが生まれるまでのプロセスをご紹介してきました。今回は、最終製品に至るまでのプロトタイプや製造の様子をご紹介できればと思います。
前回の活動報告では、デザイン検証用に紙や3Dプリンタを活用してプロトタイピングを行った様子を投稿させていただきました。
しかし、この時点の検証はあくまで意匠上のもの。実際には金型を使用した射出成形によって量産品を製造していくことになるため、様々な成形条件をクリアしなければなりません。
意匠に影響する成形上の条件には、抜き勾配と呼ばれる、金型から成形品を取り出す際にスムーズに離型するために必要な傾斜の設定や、価格にダイレクトに影響する部品数の設定、樹脂の種類や色、シボの選定など様々なものがあります。
意匠上で実現したい姿と成形上の条件を突き合わせ、時には成形条件によって目指す意匠を実現できなそうな際に、設計方法や部品数を振り出しから考え直したり、設計当初はいけると思っていた条件が、プロトタイプを制作した際に予期せぬエラーが発生したりと、まさに一歩進んで二歩下がるという状況を繰り返しながら進行していきました。
↑抜き勾配の設計イメージ
通常この時計の形状と部品数では抜き勾配が上記と逆になってしまい、時計を置いた際にお辞儀したように正面が下を向いてしまうのですが、設計・製造上の課題をクリアして何とか正面から背面に向けてしぼむ向きで傾斜を設定。
↑様々な成形条件を加味した初期の3Dプリント試作品
最終製品とは若干細かな仕様が異なりますが、大枠最終製品と近い状態になっています。
ムーブメントとの嵌合(かんごう)やヒンジ部分、部品同士の隙間など細かな要素を確認し、この時点で問題ないことが確認できたらようやく金型の設計・制作に進みます。一度金型を製作すると、細かな調整はできても大きな変更や後戻りはできないため、ここでの仕様の決定が今後の商品に大きく影響します。
↑金型を使用した初期の成形トライアルの様子
初期成形ではまだシボ加工は施しておらず、まずは質感の確認前にエラーなく成形が出来るか、樹脂の収縮による嵌合(かんごう)具合に問題が無いかなどを確認します。ここでは大きな問題は無く、トライアル成形が完了。金型にシボ加工処理を施すために一度成形機械から金型を取り出してシボ加工会社へ搬出します。
↑表面にシボ加工を施した後の再成形テストの様子
表面に指紋が付きにくいサラサラとした質感を目指してシボ加工を施し、再度成形テストを実施しました。すると、シボ加工の影響や、本格的な多量成形の影響で、量産していくと金型が熱を持って成形が不安定になったり、黒と白で色と樹脂の違いから成形品質が異なったりと、予期せぬエラーが多数発生。複数回の金型調整や仕様上の微修正が必要となりました。その影響により当初計画していた販売スケジュールを複数回に渡って数か月ずつ後ろ倒しに変更するなど、試行錯誤を繰り返していきました。
↑文字盤印刷のための出荷前の様子
いくつかの課題をクリアしながら白、黒ともに成形を完了。黒に関しては、樹脂色の特性上成形時にフローマークと呼ばれる樹脂が流れる跡が出来てしまうため、最終的に塗装仕上げを実施しました。その後、白、黒ともに文字盤の印刷、組み立てを経てついに最終製品の完成となります。
1月21日、こちらの活動報告投稿時点では、鋭意最終組み立て実施中で、1月22日の週には完了予定となっております。
その後、1月31日をもってGREEN FUNDINGでのプロジェクトを完了し、2月頭には梱包、配送手配を行い、皆様のお手元へお送りする予定ですので、発送手配の目途が立ち次第、再度こちらの活動報告にて連絡させていただければと思っております。
ここまで、アイデア発想から製造までの過程を数回に分けてご紹介させていただきました。普段、何気なく使っている製品も、様々な背景や過程の中で、試行錯誤を経て世の中に生まれているものが多いと思います。そのようなストーリーを知ることで、ちょっと愛着が沸いたり、ちょっと大切に使ったり、誰かに話してみたくなったり、モノと人との関係性が少し近くなるのではと思っています。
「あと、何日。」も、お手元に届いた際にこちらの活動報告が記憶の片隅で思い返され、ちょっとでも愛着を持っていただけるきっかけになれば幸いです。