世界各国の新鋭作家(総勢18名)のSF短編小説を一度に堪能できる一冊『Rikka Zine』創刊号
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Rikka Zine Vol.1内容紹介(3) 第1章 Delivery編・後

Rikka Zine主宰・橋本輝幸です。ちょっと入稿前のバタバタで活動報告が滞っていました。

本日はアップロードやサイバーパンクテーマが多くふくまれた、第1章:Delivery編を最後まで紹介します!

前半の紹介記事はこちら。

 

1    千葉集「とりのこされて」

2    レナン・ベルナルド「時間旅行者の宅配便」

3    木海「保護区」

4    府屋綾「依然貨物」←今日はここから!

5    伊東黒雲「(折々の記・最終回)また会うための方法」

 

府屋綾「依然貨物」(約9800字)

(略)

 発掘は初めてだろう。夏休みに沈没船を発掘する非日常が、彼らを浮足立たせる一つ。《カニ》に遭遇するのも、それと同種の非日常だ。

 タラバガニやカブトガニと同じように、《カニ》は本当のカニではない。十脚目短尾下目には属していないし、それ以前に生きてすらいない。報告書を書く段になれば、UXCという名前に化ける。不発弾(Unexploded Ordnance)をもじった依然貨物(Unexpired Cargo)の略称だが、予想外のカニ(Unexpected Crab)のほうがはるかに通りがいい。

沈没船の発掘作業を邪魔する、水中の怪しい影。それは野良と化した固定脚つき自律コンテナたちがたむろする姿でした。エンジニアリング的不始末から生まれた《カニ》の駆除風景は、ドライな語り口ながら読者にロボットSFやテクノロジーへの、そして届かなかった郵便に対する感傷の気持ちを刺激してくれます。技術や背景に対する手がたい描写も妙味です。

府屋綾さんが特に影響を受けた作家はスタニスワフ・レム、ジーン・ウルフ、神林長平、ピーター・ワッツだそうです。ちなみにアンソロジー同人誌『以死人為帰人 以生人為行人』掲載の「アンダーワールド・ハーベスト」も佳品です。

 

伊東黒雲「(折々の記・最終回)また会うための方法」(約6800字)

(略)

文書館で見つけたガリ版と思われる地方紙、日付は二六七七年八月一四日。そこでは毎年盆の季節に先祖たちを迎える祭りが行われるというのだが、その内容が目を引いた。先祖たちの情報体が入っていると信じられた二一世紀製のHDDを人の輪の中心に据え置き、そこへ若人たちが自転車を漕いで電気を供給するというのだ。

時は西暦3000年も間近な、人間が情報だけの存在になって久しい時代。著者の伊東黒雲2.1は多くの年月や災害で荒廃した日本各地をさまよい、自らのルーツのある山口県の「墓地の墓地」に足を運び、その記録を“連載”します。手記や記憶の保存方法が変わっても記憶を残し、伝えようとする行為は不変で、そこに私たち読者は平安文学からInstagramまで普遍的な行為を勝手に重ねてしまいます。

本作は、札幌の地下街や大阪の中崎町といった都市名が読者の記憶を刺激しつつ、そこに未来の出来事や未来人である語り手の思考といった“異物”が上乗せされたスタイルが特徴的です。いわば読む拡張現実(AR)小説なのかもしれません。

文芸同人誌『異界觀相』収録の「子午線の結び目」は著者の言葉選びのセンスが炸裂していて、本作とはまた違った方向性で楽しめる作品でした。

2022/09/11 19:47