「トビヲちゃん」が見てきた黄金町や寿町。
問題を抱えるこのまちの本当の素晴らしさを多くの人に届けたい。

アーティストだけど商人?

黄金町エリアに私がずっぽりと関わるきっかけとなったのは「ちりめんや」というプロジェクトでした。

ギャラリー*ショップ ちりめんや 2010年4月〜2013年3月

2010年3月に私が関わっていた二つの大きなプロジェクトが終わりをつげようとしていました。

一つは横浜市中区日本大通にあった旧関東財務局の跡地をクリエイターに提供していたプロジェクトZAIM。

ZAIM:写真は2006年ピンクリボンキャンペーンで外壁にリボンを設置した様子。

私はここの場所に現在のNPO法人黄金町エリアマネジメントセンター事務局長の山野真悟さん、現在もともにアトリエをシェアしている村田真さんと共同でスペースを借りていました。

もう一つは、東横線桜木町駅舎跡地をアートスペースとして活用した「創造空間9001」というプロジェクトで、私はここの現場の運営を担当していました。

創造空間9001(旧東横線桜木町駅舎) 2007年9月〜2010年3月

私は市の政策の流れでアトリエと職を一度に失うことになろうかというタイミングで、横浜市中区初音町にあった「ちりめんや」という呉服屋さんの跡地をアトリエとして使わないかと山野さんから紹介がありました。

同じ横浜市中区にあるアートスペースBankARTでも講座などを担当している村田さんは行き来するには遠いということで断念しましたが、私は、

「ものを売っていた場所だから、ものを売る場所にした方がこの場所にとってもよいのでは。」と話をしましたら、山野さんに、

「あなた、それやれる?もしやる気があったら企画書書いてきて。」と言われ、

企画書を書き、トヨタ財団の助成金を活用しながら50人以上のクリエイターの商品などを扱うお店を運営することになりました。

黄金町高架下の再生とともに周辺のシャッター街の問題も一緒に取り組まないとまちの経済の再生につながらないのではというのが山野さんの考えでした。

ZAIMや創造空間9001での活動の中で、クリエイターがどんどん集まってきても、そこの場所にクリエイターのための仕事や市場がなければ、アトリエにずっといてほしいと言われてもなかなか厳しい。かといって、ZAIMも創造空間9001も市の管理施設ということもあり、思い切り商売に特化したことも難しい。

という悶々とした悩みを抱えていました。

また、実際にクリエイターに何か頼みたいという人が出てきたときに、「アーティストはこだわりが強いから、こういうものを作ってほしいというオーダーになかなか答えてもらえないのでは。」という話があり、結びつかないことがありました。

これは、クリエイターの職種にもよりますが、オーダーされた方が力を発揮できる人、自分が作ったものをアレンジしてもらった方が良い人それぞれです。

いろんなまちでトビヲちゃんを出没させることで、様々な店主に会うことができ、そこで私がわかったことは、こだわりが強い頑固ものは、アーティストだけでなく、店主もそうだということでした。

シャッター街などでも長年続けられているお店は、特にそうです。

店主そのものが引きの強いアーティストになっているのです。

何かを作って販売する。何か商材を持ってきて素敵に見せて販売する。

これは全てクリエイティブなことです。

看板を掲げてお店を出し、辛いこともあるだろうけど毎日笑顔でお客さんをお迎えする。

作品が売れない、もしくは売れなくてもいいんだと悲観し、意地をはっていた自分がなんとなさけなかったことか。「美術家竹本真紀」という看板を掲げた以上は、もっと覚悟を持ってやっていかなければならないんだ。とわかってからというもの、

商店主の方々と同じ目的に向かって切磋琢磨する同士のような関係になってきました。

ちりめんやの活動の延長にあったのが「初黄日商店会(はつこひしょうてんかい)」の活動でした。

黄金町エリアの商業の発展のために結成した地元商店主の有志の会です。

商店会の名前はちりめんやの常連さんが命名してくださいました。

お店のお客さんのどんな小さいことでもキャッチして、できることはお店や地域に反映していこうと思いました。

商店会のロゴマークは黄金町のアートプロジェクトがきっかけではなく、もともとこのエリアに移り住んでいたイラストレーターの吉田しんこさんに制作していただきました。

私もイラストのような仕事をしていますが、イラストレーターではないので、この場合は地元のおばちゃんたちの有志の八百屋のロゴや四コマ漫画をかいていた、しんこさんに作っていただくのがベストだと思いました。

この地域の名物店主をロゴマークにするという期待以上のものを作ってくださいました。

後に、この店主たちを俳優と見立てたまちあるき”縁”劇を演劇作家・演出家の市原幹也さんと開催します。

市原さん自ら初音町の柴垣理容院のサービスを体験。

写真家の倉谷拓扑さんには商店主をモチーフにした写真作品を制作していただきました。

魅力的なお店や店主はアーティストやクリエイターの創作意欲にスイッチをいれてくれます。

よく、会議の中でも「アートばかりでなく商業も発展を!」という発言が聞こえることがありますが、

商店主が持っているキャラクターや看板商品の力が強いので、私の活動にも後押ししていただいていますし、商店主やまちの住民の魅力をモチーフにした作品づくりに様々な手法を用いてチャレンジさせていただけていて、とてもやりがいがあります。

ないものやできていないことに目が行きがちですが、それぞれの性格や技術、能力を活かせば無理なくアートも商業も発展できるのではないかと思っていろいろと試させていただいています。

「美術家竹本真紀」って何してるの?

と言われて自分でも答えにつまることもあるくらいですが、

「美術の理論を使って人やまちをつないだり問題を解決したり」そんな活動がメインになるのでしょうか。

実は黒子の方に徹していることの方が多いので、多くの活動は目に見えないことが多いのですが、コトブキンちゃんやトビヲちゃんに表舞台に立ってもらっています。

でも、やはり美術という柱は自分の中では崩さないように、アトリエでキャンバスに向かう時間は大事にしたいと思っています。

その中で、私にとってはキャンバスが時々まちの中にあり、まちと関わった方が面白い価値観をたくさん吸収できるということもあり、まちへ出ていることが多いのだろうと思います

2016/02/09 00:33