「砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているからだよ……」
(サン=テグジュペリ「星の王子さま」)
群馬県前橋市。緑豊かな敷島公園のすぐそばに、フリッツ・アートセンターという絵本屋さんがあります。前の庭には大きな薪窯があるパン屋さん、そして植えたばかりの一本のモミの木と、椅子にもなるようなクレピアの花々。絵本に出てきそうな風景が広がるそこに、この秋、井戸を掘って「絵本みたいな場所」を作ります。
その名も<カナウニワ>。絵本作家の荒井良二さんが“願いが叶う庭”との思いを込めて名付けてくれました。
今回、ご協力いただける皆さまには荒井良二さんが期間中に描き下ろした絵本「カナウニワ」の限定本やポストカード、絵本用トートバッグを贈ります。どうぞ最後までお付き合いください。
薪窯で焼けたばかりのライ麦パンをかじり、庭で獲れたばかりの檸檬を絞ったレモネードを持って、古い古いお話の絵本を抱えた子どもたちが、50メートルにもなるモミの木の下で遊びの相談をしている―。
今から100年後にそんな未来が描けるような場所を、今からつくっておきたいと思います。
このプロジェクトで新たにつくる井戸。その語源は、「居処:いど」=ひとが集まる場所、だそうです。きっとカナウニワの中心にあって、たくさんの人が集い談笑するような場所になるでしょう。そしてこのカナウニワの物語を、荒井良二さんが絵本にします。
皆さんも登場人物として、カナウニワという“絵本みたいな場所をつくる”物語に参加してほしいな、と思います。いよいよ完成のときには、「井戸開き」として神楽太鼓やガムラン音楽でお祭りをして、秋の実りを食べながら一緒にお祝いをしましょう。
子どもたちに何が残せるでしょう。それはきっと、新しいものでも、特別なものでも、高価だというものでもありません。 たとえば、大きな木かげ。花々と緑で埋まったベンチ。薪窯で焼くパン。聞いたことも見たこともない、世界中の音楽と絵本。 そして、溢れ出る井戸のつめたい水……。
子どもたちに残していくこの世界を、もとのままで、美しいままに、確かなことがある場所としてつないでいけたらと、昨年のクリスマスからこのプロジェクトは始まりました。
まず取りかかったのは、「絵本屋」でのライブペインティング。絵本作家・ミロコマチコさんが、シンガーソングライター・あがた森魚さんの宮沢賢治朗読で、15個の本箱に物語の一場面を描きました。「前庭」では、フランスから10トンの窯を運び込んで建てた〈公園の薪窯パン屋〉を開店しました。たくさんの子どもたちと〈百年のモミの木〉を植え、座って絵本が読めるような〈花々の椅子〉となるクレピアを育てています。
この秋には、若いロースターたちが交替で店頭に立つ〈コーヒースタンド〉や、世界中から誰も聴いたことのない音楽を集めた小さな〈CDショップ〉を館内にできます。
そして、この秋。
ギャラリーで開催される「水の絵本」展(8/10-11/10 詩 : 長田弘)に合わせて、絵本作家の荒井良二さん、そしてその仲間たちと、庭の真ん中、35年前に植えたカリンの木の下に井戸を掘ります。
リターンは全てクラウドファンディング達成後に限定数を制作。
2019年のクリスマスまでにお届けいたします。
▼3,000円【カナウニワ来訪セット】
☆カナウニワ来訪セット:薪窯パンとコーヒーチケット(各1)
☆荒井良二:〈カナウニワ〉オリジナル・ポストカードセット(限定)
☆ホームページにお名前を掲載
▼3,000円【井戸開き参加セット】※限定15名
☆【10/26開催】井戸開き:なおらい(食事会)」参加券(先着 15名)
☆荒井良二:〈カナウニワ〉オリジナル・ポストカードセット(限定)
☆ホームページにお名前を掲載
▼5,000円
☆荒井良二:〈カナウニワ〉絵本のためのオリジナル・トートバッグ(限定)
☆ホームページにお名前を掲載
▼10,000円
☆ホームページにお名前を掲載
☆荒井良二:〈カナウニワ〉 絵本(限定 : サイン / エディションナンバー入り)
荒井良二さんが〈カナウニワ〉から生まれるまでのものがたりを描き下ろし。プロジェクト終了までに集まった限定数だけを作り、お届けいたします。
▼50,000円
☆〈カナウニワ〉井戸の周りに建てる「カジュの門」に、お名前を刻みます。
☆荒井良二:〈カナウニワ〉 絵本(限定 : サイン / エディションナンバー入り)
☆ホームページにお名前を掲載
久しぶりに帰った、生まれ育った街からなくなっていたものは、大きな木や空き地や喫茶店や本屋や映画館でした。
それは、自分をつくった、なくてはならない場所。行き場所。居てもいい場所で。
また、中心地は郊外のロードサイドに移動して、公の建物は「らしさ」を失い、場所を必要としない時代のはじまりでもありました。
生産性と効率こそが明るい未来と、国が一斉に単線を走り始めたのもその頃で、その居心地の悪さから、ならば自分だけでもと、何も変わらないまま街の奥にある公園の古い森の側に、場所を探しました。
1985年。最初は、まだ会うことのない理解者と出会うために、カフェをつくります。 「RITZ」という名前の、石でできた四角いおとこの建物で、30種類のオムレツとキッシュと庭の結婚式が評判でした。しばらくして、ひとりぼっちだった建物にパートナーができます。 すぐとなり、百年の杉の木の下の、赤くてまるいおんなの子の建物で、「RITZ」に女性の “F” をつけて「F-ritz art center」と名づけられました。1993年のことです。
その時の《1+1=1》というコンセプトは、より多くとか、より早くとか、より高くということではなく、変らぬ毎日の営みのなかで、すこしずつ円周を拡げていこうとするものです。そう、ひとつの水滴にもうひとつの水滴を置いていくかのように...。
『絵本屋』『タンタン・ボックス 前橋店』『ポスター・ボックス』『美容室』『家具屋』.....。同じ価値観と未来への夢を持つ仲間も次第に増えていきます。「クリスチャン・ボルタンスキー展」と「くまのプーさん絵本原画展」をオープニングにしたギャラリーでは、数多くの新たな表現も生まれていきます。 宮沢賢治の全ての童話を絵本にと始められた「宮沢賢治絵本原画展」も、第十三期30作目になりました。
同時に《街を 街そのものを美術館に 劇場に》を合言葉に、街にも出かけて行くようになります。
家具店跡をギャラリーに、スーパーマーケット跡を劇場に、商店街の通りをサーカス会場に、百貨店跡をパフォーマンス・スペースに、アーケード内を映画館に、県庁前広場をキャンプ場に、銀行跡をライヴ会場に、消防署跡をアートセンターに...。
空き地で子どもたちが新しい遊びを発明するように、使い方を工夫しながら、アートによって空間を再生していこうとする、壊しては作るという時代への抵抗の始まりでした。
2009年には空きデパートの中の映画館跡を再生。地方では珍しい名画座として「シネマまえばし」を開館します。これは《1回 一万人というイベントではなく 毎日30人1年で一万人を 街に》というコンセプトで、失われつつある「日常性」と「つながりあう気持ち」をゆっくりと恢復していこうとするものです。
そして、フリッツ・アートセンターは、成長に代わるまったく新しい豊かさのあり方を見つけるために、35年かけて創った小さな物語と、そこから生まれた価値観を見直し、未来から今を思い描き、変化を恐れずに、また動いて行こうと思います。
2019年9月9日
子どもたちの 子どもたちの 子どもたちのために
フリッツ・アートセンター
定点観測
2019年4月
2019年6月
2019年8月