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ビール醸造を極めた男の数奇な人生を描いた
ドイツのミステリー小説
『ビールの魔術師』(原題:Der Bierzauberer)を翻訳出版したい!

一部先読み原稿を公開!ミステリー小説・歴史小説ファンも楽しんでいただける内容です

こんにちは、サウザンブックスです。
プロジェクト終了まで残り20日ほど、あと40%ほどの達成率で出版決定という状況になりました。ここまで応援いただき、深く感謝申し上げます。

本書『ビールの魔術師』は、ビールやドイツ食品文化にそれほど興味がない人も楽しんでいただける、本格的なミステリー小説・歴史小説です。

その雰囲気をみなさまにもお伝えしたく、作業中の翻訳原稿を一部公開いたします!
(原稿は作業中のものになります。完成版とは異なります。)
 


Bierzauberer

 

凡そ事の初めには不思議な力が宿っている。
それがわれわれを守り、生きるよすがとなる。

「階段」ヘルマンヘッセ (高橋健二訳)

私の小さな太陽、リーヌスへ

 

二度目の神の裁き

 ケルンでの最後の夜、彼は、ほぼからっぽになった家にいた。
小さな食卓に向かい、両手で頭を抱え込み考えた、なぜこうなってしまったのだろうと。扉のそばには荷づくりを終えた箱が二 つ。ウルブラッハに持っていくものはこれがすべてだ。
「コンコン」とドアを叩く⾳がした。
「どなたか知りませんがどうぞ。扉は開いていますよ」
さっと扉が開くと、冷たい空気が部屋の中へ流れ込んだ。目の粗い麻布の修道服が視界に入った。ニクラスは、扉を振り返ろうともしなかった。
「ベルナルト、お前は俺の人生すべてを踏みにじった。俺が愛する⼤切なものすべてをな。それでもまだ足りないのか?」
ニクラスは⽴ち上がり、かすれ声で笑った。
「俺の命までも奪いに来たのか︖ だがそう簡単にはいかない」
ベルナルトは部屋に残されていた二脚の椅子の片方に無言で座った。ニクラスはその時初めて、ベルナルトが袋を携えていることに気付いた。中でカタカタと⾳がする。
「ここへ座れ︕」荒々しい口調でベルナルトが言う。
「ここで決着を付けようじゃないか」
ニクラスは向かい側に腰を下ろした。
ベルナルトはチーズのようなきつい臭いを放っていた。⻑いこと体を洗っていなかった。ほとんど寝ていないことが顔からはっきり見て取れる。目は深くくぼみ、狂気の様相を呈している。
持ってきた袋の中から同じ形のジョッキを二つ取りだすと、食卓の上に置いた。
「ウルブラッハでは神の裁きがお前を救った。覚えているな?」
ニクラスは無言でうなずいた。
「今日が二度目の神の裁きだ。ここで決着をつけよう。このジョッキの片方には新鮮でうまいビール、もう片方にはヒヨス、ベラドンナ、ジギタリスが入った悪魔のビールが入っている。両方ともお前の好きなホップを使っているから、どちらにも同じ苦味と香りがある」
ベルナルトが何を企んでいるか、見当がついた。無実ではあったが、ニクラスはどちらかの死でベルナルトとの対決に終止符を打つことにした。
ベルナルトが両方のジョッキを持ち上げた。
「ひとつ選べ。同時にビールを飲み干そう。どちらかがここでくたばるというわけだ」
ニクラスはベルナルトが掲げたジョッキの左を選び、相手の目をまっすぐ⾒つめた。
互いの目に見て取れたのは憎悪だけだった。


 「さらば、わが人生の悪夢よ!どう転ぶにせよ、もう二度と会うことはない」
そう言うとニクラスは、ベルナルトとジョッキを合わせずに、まっすぐ口に運び、一気に飲み干した。床にくずれ落ちる寸前、ベルナルトがおずおずと飲むふりをするのを目にした。
顔が紅潮。白目を剥き、しだいに眼窩から目が飛び出さんばかりになる。口から唾液をもらし、四肢を二、三度痙攣させると、ニクラスは静かに床に横たわった。

 

 ベルナルトは⽴ちあがり、ジョッキを掲げて言った、
「地獄で釜茹でになるがいい、悪魔の醸造家、ニクラスよ!」
そして自分のビールを飲み干した。


 狩りは終わった。

 

注釈)

一ヒヨス:Hyoscyamus niger 麻酔薬として昔から使われてきたが有毒。十一世紀から十六世紀にホップに代用されるまで、ヒヨスはビールの原料として風味付けに用いられてきた。

二ベラドンナ:Atropa bella-donna ナス科オオカミナスビ属の草本。薬用にもなるが、全体的に毒を持つ。

三ジギタリス:Digitalis オオバコ科の属の一つ。全草に猛毒がある。

 


本国ドイツでは、ミステリー好き、ミステリー作家、映画などの情報が集まるWEBサイトでも紹介されていていて、さまざまなサイトにて高評価レビューもついていますので、こちらも一部をご紹介致します。
 

・作者ギュンター・テメスは、主人公ニクラスが残した書を現代でも読める形に再現し、
巧みに背景的知識をあしらい、全体を非常にうまく醸している。

・メインテーマが読者にわかりやすく、堅苦しくなく伝わる。
この小説は、中世好きにはとてもお薦めの作品である。中世やビールに詳しくなくとも大変ためになるであろう。

・主人公は、輝かしいヒーローではなく、一般庶民である。(登場する)町や地域の特色も物語に特別な魅力を与えている。例えば、大聖堂建設当時のケルンが重要な物語の舞台の一つとなっており、それにまつわる興味深い話も語られている。

・中世ファン、特にビール好きは”必読”物語を締めくくるエピローグとそれに続く付録は賞賛に値し、約40ページと読み応えがある。広範囲にわたる説明、歴史年表、多くの文献やインターネットアドレスなどの情報が、詳しく知りたい読者向けに収められている。

・細部にまでこだわって書かれたワクワクする本!多かれ少なかれすべてがビールをテーマ(中世が舞台ではあるけど)の本なので、素敵なビールグラスで長い夜を過ごすのに最適です。

・非常に良い、刺激的で、情報が豊富で、学びも多い。素晴らしい中世への食の旅にいざなわれる。

・ビールの魔術にかかる小説。物語を味わいながら小説の世界に入り込めます。また、著者はビールの歴史に精通しており、中世の時代、ビール醸造がどのように発展したかを見せてくれます。

また、本書を発行しているドイツの出版社Gmeiner Verlag(グマイナー・フェアラーク)は、ドイツ語圏のミステリー小説を中心に手がける出版社です。
このことからも、本シリーズが多くのミステリーファンから支持されていることがうかがえます。


ドイツビールにそこまで関心がない方でも、必ず楽しんでいただける小説です。
プロジェクト成立まで、情報拡散にお力添えくださいますよう、
どうぞ宜しくお願い申し上げます!


 

2020/06/10 14:14