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【イベントレポート】有志で集まった若手クリエイター達による、命について考える絵本『78円の命』って?

2012年当時、小学6年生だった愛知県豊橋市に住む谷山千華さんが書いた「78円の命」という作文がある。
自分の身の回りで起きた、動物の殺処分という事実に対して当時の思いが素直に書かれ、同市の道徳教材として使われるまでになった。
そして3年後の2015年、その作文を絵本化するプロジェクトが、GREEN FUNDINGで開始。

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フォトグラファー、アートディレクター、ライターを生業とする3人が集まり、動物の命について考えるきっかけ作りをするための絵本を作り始めた。

今回発起人であり絵本の制作に携わった、フォトグラファーのKay N(ケイ N)さん、アートディレクターの新村夏絵さん、ライターの戸塚真琴さん、そしてイラストを担当したイラストレーターの佐伯ゆう子さんが登壇し、絵本の完成・出版に至るまでの道のりを振り返るトークイベントが、二子玉川蔦屋で開催された。

IMG_4378左より 戸塚真琴さん、新村夏絵さん、Kay Nさん、佐伯ゆう子さん

 

プロジェクト立ち上げのきっかけは?

戸塚真琴さん(以降、戸塚):まず、『78円の命プロジェクト』についてですが、2012年当時に小学6年生だった谷山千佳さんが書いた『78円の命』という作文があります。
動物の殺処分に真正面から向き合ったこの作品に多くの人が感銘を受け、現在は豊橋市の道徳教材として使われています。この作品をより多くの人に知ってもらうために始まったのが、『78円の命プロジェクト』です。

この作品を通して、小学生のうちから命について考えてもらえるきっかけを作りたいと思っています。

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戸塚:このプロジェクトが立ち上がったきっかけは、去年の7月くらいにcomicoという漫画アプリがあるんですけど、それをたまたま私と新村さんが読んでいて、掲載されていた『78円の命』をすごい作品だな、と感じたんですね。
それでその作文をもともと掲載していた地域猫活動をしているサイトに連絡したんです。

そしたら私が連絡したタイミングでKayさんと新村さんもちょうど連絡をしていて、その地域猫活動をされている方から「一緒に何かできたらいいですね」というお話をいただき、連絡を取り合って。
全く知り合いではなかったんですが、偶然の重なりで「一緒にやりましょう」という話になって、絵本とポスターとリーフレットを作りたいねということで始まりました。

出版社とかどうしようかという話などもしていたんですが、今回は自費出版でクラウドファンディングでお金を集めてやりませんかという風になって。


▲78円の命プロジェクトページ https://greenfunding.jp/lab/projects/1406

 

実際に活動が始まったのは今年の1月に豊橋に行ったあたりからですね。
一月末くらいに豊橋に行って、実際に作者の谷山千佳さんにお会いしたり、絵本の中に出てくる“キキ”に会ったりしてきました。

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作者の谷山千華さんんと、モデルになったキキ

 作品としてのこだわりは?

発起人の3人とは別で、後からオファーされて活動に加わったという、イラストレーターの佐伯さん。

戸塚:実際にこの作品の絵を描くオファーを受けようと思ったのはどういう経緯だったんですか?

佐伯ゆう子さん(以降、佐伯):谷山千華ちゃんの絵本をネットで拝見したときに、千華ちゃんのまっすぐな文章に共感できたというか。
私も小学校の時から兄が拾ってきた猫をかっていたり今も実家で飼っていたりするので、千華ちゃんの気持ちに共感できたし、会いたいなと思って。実際に会ってみて、文章の通りの聡明な子だと思いました。

実際に作文を書いたときからは何年かたって中3になっていたんですけど、あどけなさもありながらすごく信念をもってこの文章を書いているのが、この数年の間も保たれていて、そのしっかりした姿勢に胸を打たれて。千華ちゃんの文章を伝えられるようなものを描きたいなと思いました。

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―今回の作品を作るうえでのこだわり、大変だったことはなんですか?

新村夏絵さん(以降、新村):絵本のトーン、色使いというか、子供に向けて伝えたいんだけど、子供らしい、いわゆる絵本みたいなところに行くのがちょっと違うなと思っていたのでそこが少し難しかったですね。最終的な全体の色味の使い方とかが。

佐伯:新村さんとよく話していたのが、昔小学生の時に読んだ心に残っている本が割と怖い本が多かったなという話をしていて。

新村:そうですね。怖くて、でもなぜかずっと覚えているという本があって。それがすごく心に刺さっていたので、ずっと心に残るものを作りたいなと。

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佐伯:怖すぎても、小学生とかにも読んでほしいし(笑)一番バランスを取ることを重視しましたね。
私も実際に豊橋に行って、私は猫を飼ったことがなかったんですが、飼い猫と道にいる猫の目が全然違うと戸塚さんがおっしゃっていて、私も本当にそうだなと思ったんですね。

やっぱりお家の猫ちゃんは愛らしいというか、やわらかい安心しているような表情をするんですけど、安心ている可愛い猫を書いてしまうと内容も違うし、保健所などに行って見たりするときの印象をそのまま書いてしまうのもバランスが大事だなと思って、”目”を一番考えて描いていましたね。

新村:実際、最初のころに書いてくれた猫の顔はちょっと可愛かったんですよね。(笑)
これだと普通に愛らしい猫の本になってしまうんじゃないか、なども試行錯誤がありました。

 

―どんなことを考えながら絵をかいていましたか?

佐伯:普通に販売して店頭に並ぶ本ではなかったので、学校などで道徳の勉強でも使っていただけるように、というのは意識していました。
でも行政で作るものではない、新しいものを意識しながら進めました。

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戸塚:活動していく中で行政の方が作ったものとかもたくさん見せていただいたんですが、今回はせっかくクリエイターの人たちが集まるんだったら、興味がなかった人にも読んでもらいたいというのが私たちの中にあって。
今までとはちょっと違うものを作ろうというのは最初の段階で話していましたね。だけど内容はしっかりしたものにしようと。

戸塚:本の帯は松浦弥太郎さん(文筆家・COW BOOKS代表など)という方に書いていただいたんですが、松浦さんにお願いしたいということでオファーしたら快く受け入れてくださって。
松浦さん自身も19年猫を飼われていて、この絵本自体にもすごく共感してくださって。
初校の段階で内容についてもけっこうアドバイスしていただいて、松浦さんのアドバイスによっていい本になったんじゃないかと思っています。

 

完成してからはほぼ手作業で

戸塚:まず300部くらいを支援者の方に送ったんですが、それもレターパックで手作業で送りました。

Kay Nさん(以降、Kay):けっこう大変でしたね。(笑)

戸塚:朝9:30から夕方6:00までやり続けました。

Kay:今回はコストをかけられないので手作業の割合がめちゃめちゃ多かったですね。

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戸塚:クラウドファンディングの支援者の方に390万円ご支援いただいたんですけど、けっこうギリギリまで冊数を増やしたので390万円も意外とギリギリで、できるだけコストをかけないように自分たちでやろうという話になって。
業者さんに頼めばラクだったんですけど、自分たちでやりました。

新村:最後はみんな疲れすぎて、作業の様子を写真に撮る余裕もなかったですね。

 

猫たちも、実際に撮影に

戸塚:支援者のみなさんにはお送りしているんですけど、今回ポストカードを作って、写真をKayさんに撮ってもらっています。
これはポストカードですけど、ポスターにする予定で、小学校とか学校関係の場所に貼ってもらいたいなと思っていて。
このポスターに移っている猫たちを3月に地域猫ボランティアの方のご自宅や、南中野にあるシェルターに伺って撮影させていただきました。

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Kay:被写体の子たちは、実際に保護された猫ちゃんたちですね。
数メートル以内には近づかせてくれない猫ちゃんもいましたが、取らせてくれた猫ちゃんをメインに。
それから支援をしてもらうにあたり写真素材とかが必要になって、豊橋の千華ちゃんを訪問し、撮影の進行をしていったんですが、千華ちゃんの声もあったほうがいいなあと思って、千佳ちゃんの母校の小学校で映像とか音声を取らせてもらったりもしました。

 

絵本を作って、伝えたかったこと

戸塚:私たちがこの絵本を作っていくうえで大切にしていたのは、これから先何十年も読まれて愛される作品になってほしい、というのを一番考えながら作っていました。

絵本は一回読んで飽きて捨てられるようなものではなくて、これを読んで考えてだれかに伝えてもらえるような本になって欲しい、という思いがあって。

それをずっと考えながらみんなでつくってきたんですけど、だから作るのに時間もかかって3か月以上かかってしまいました。

ずっと家の本棚に大切に保管されるような本になってほしいという思いがあったので、やっぱり妥協できない部分がすごくあって。
佐伯さんと新村さんには何回も見てもらって微調整して、やっと完成しました。

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新村:ふりがながふってあるので、ひらがなが読めるお子さんだったら誰でも読めるような本になっています。

戸塚:絵本の内容はシビアで難しくて、決して面白くて笑えるような話ではないんですけど、もう一回あの作品を読み返したいなっていう作品に仕上がっているんじゃないかと私たちは思っています。

この作品を読んだんだ人が、もう一度命について考えるきっかけになればいいなと思っています。

佐伯:実際に保健所や行政の方とお話しする機会をいただいて、みなさんボランティアで活動されている方で、猫たちがたくさん集まっている公園に雨の日も晴れの日もご飯をあげに行ったりされていて。
保健所の方も獣医の資格をもっている方が保健所で働くということ、獣医さんがいないと保健所はだめなのでいろんな選択があるなかで保健所で働くということを選ばれているんだろうなと。

やっぱり難しい問題なので、いろいろな考えがある中で日常の仕事として行っている方々が本当にたくさんいらっしゃるんだなということを実感したので、こうして少しでも絵本に携われてよかったなと思っています。

K:ぼくは松浦弥太郎さんの帯の言葉がすごい刺さるんですけど、
『大切なのは、いのちそのものではなく、いのちをせいいっぱい抱きしめること。』という言葉です。

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”いのち”は大前提として大切で、でもまわりを見渡せばありふれていてそこらへんに命はどこかしこにもあるもので、そんな命というものをあらためて意識して触れたり、弥太郎さんは「抱きしめる」とおっしゃってますけど、触れたり愛でたり意識したりっていうことでもう一回、改めてあるよね、僕も持ってるし、と。

僕も子供がいますけど、子供が大事っていうのは世界共通で大前提だと思うけど、それをもう一回改めて意識して抱きしめてあげるとか触れてあげるとか、そういう観点が弥太郎さん素晴らしいと思ったんです。
そういう風にいのちをもう一回考えるということを感じながら読んでもらえたらありがたいかなと思います。

新村:ちょっとやり切ったばかりなので息切れしているんですけども(笑)、最初に千華ちゃんの文章を読んで「私がちっちゃい時からここの分野って全然変わってないんだ、まだ保健所に連れていかれている子たちがいるんだ」っていう風に思って。
私もう大人なのに何かできないのかな、と思ったことがきっかけだったので、そういう風に思ってくれる人がこの絵本を読んで増えるといいなと思っています。

質疑応答の時間も設けられ、絵本のテーマや今後の活動についてなど、様々な質問もなされた今回。
参加者のみなさんの熱い思いも交差する、貴重なトークライブとなった。

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ちなみに、絵本の販売価格は78円

78円で売りたい」という彼らの思いが、大きなメッセージとして伝わっていくことを祈りたい。
7/1から、蔦屋家電や蔦屋書店でも置かれるほか、インターネットでも発売されている。
気になった方はぜひ手に取って、身近ないのちについて改めて考える機会としてみてはいかがでしょうか。