”未来の教育を、ネパールから”
新しい未来の学校を作ろうと奮闘する、ネパール人の青年がいる。ネパールの奨学金制度によって高校まで進学し、その後日本の大学を卒業した後、現在は東京のソフトバンクで働いているという、シャラド・ライさんだ。
ライさん達は、日本で働きながらネパールに2012 年に竹とトタン屋根の小さな小学校「 YouMe School 」を造り、その小学校は今では 136 人の生徒を抱える大きな校舎に成長した。
今回、クラウドファンディング(GREEN FUNDING by T-SITE )で行ったプロジェクトは、ライさんたちによる2 校目の学校を造るための資金を集めるというもの。(応募の締切は2016年3月31日の23:59)
彼がどのような思いでネパールに小学校を造り、未来にどのような夢を描いているのか。
そんなライさんのネパールの学校や教育にかける様々な思いを語るトークライブが、二子玉川 蔦屋家電にて開催された。
シャラド・ライさん(以下:ライ): こんばんは。今日は、僕たちがなんで故郷ネパールで学校を造ったのか?というストーリーを、皆さんとシェアしたいと思います。そして何故 2 個校目の学校も作ろうとしているのか、ということについても、お話ししたいと思います。
僕の故郷はコタン群というところで、ガンジス河の上流の近くです。エベレスト山から直接流れてきている川です。けっこう素敵な場所です。
僕はこのような田舎に生まれても、日本で働きながらこういう活動ができている理由は、僕が 10 歳の時に、首都カトマンズにある名門学校に選ばれて勉強することができたからです。この学校は、ネパール中から何万人もの子供が受験し、 99 人だけ合格することができます。その中で、奨学金をもらえるのはたったの 33 人だけで、僕は 33 人の一人になることができたので、今の人生を送ることができています。
このカトマンズの学校はとても素晴らしい学校でした。僕の家族はお金をそれほど持っていませんでしたが、国が僕の家族の代わりに学費・食事代・制服などまで、高校を卒業するまですべて払ってくれました。
こうして本当に親のように僕を育ててくれたのが、国(ネパール)なんですね。だから僕が日本に来ることができたし、いろんな面で成長することもできました。
だけど自分の国、ネパールのことを考えてみると、まだまだ難しい状態なんですね。僕は国にとってもお世話になったから、なんとか形にして国に返さないといけないと子供のころからずっと考えてきたんですが、形にすることは非常に難しいことです。
「国を変えたい!」くらいの気持ちがありますが、それをどういう形にできるかとずっと悩んでおりました。
それで、いろんな人に話したりしたんですが、結局ぼくの人生を変えてくれたのは、カトマンズにある学校のおかげだと思ったんです。だからやっぱり教育、僕の村の子供がちゃんと勉強する場所があったら、その子供たちの未来を美しくすることができると考えて、大学 4 年生の時に、ネパールに「YouMe School (夢学校)」という小学校を造りました。
学校を造ろうと思ったもうひとつの理由は、ネパールの大きな問題である、『出稼ぎ』です。自国で仕事ができる能力やノウハウを持っていないので、 1500-1700 人くらいは毎年出稼ぎに行きます。
出稼ぎ自体は悪いことじゃないんですけれども、彼らが海外に出稼ぎに行った先には厳しい状況があって、これは僕の地元の友達に聞いたことなんですが、 365日、一日12-16 時間くらい休むことなく働くんです。そんなに働いても彼らが稼げる年収は、たったの 20万円くらいです。
カタール人の平均年収は世界でも 5 位に入るほど高く、 1000 万円以上になるのですが、その国を支えているネパール人の労働者の年収は 20 万円ほどです。イギリスの新聞では「 21 世紀の奴隷制」として書かれていたこともありました。
僕は、出稼ぎに行く先の国々には文句を言いたいわけではないんですね。ただ、なんで出稼ぎに行かなきゃいけないネパールの現状があるのか。これは、やっぱり「教育」の問題なんですね。
ネパールで子供が教育を受けるときに、一番多くの人が行くのは政府の学校です。
この政府の学校の特徴は、教える能力を持っていない先生がたくさんいたり、先生が欠席したり遅刻することが当たり前だということです。そして、学校にはパソコンや図書館などはほとんどありません。
ネパールの学校にはこのように多くの問題がありますが、一番問題なのは、こんなに問題があっても政府が無関心であるということです。
日本では、一人の子供を育てるために社会や家族・国がエネルギーや時間やお金をかけています。でも自分の国を見たときに、ネパールの教育の状況を、ネパールの社会は問題と思っていないというのがあります。思っていたとしても、ネパールの子供たちの現状を変えようと動いている人が誰もいない状況なんですね。
だから僕は、「自分の村くらいだったら、変えることができるんじゃないか」と思って、この「YouMe School 」を始めました。
ライ:はじめは、 30 万円くらいの予算で始めました。
竹で作られた校舎で、僕たちが何をしようとしているのか、子供たちの親も全くわからないといった状況で、批判をたくさん受けました。
8 人くらい生徒を集めてボランティアの先生を 1 人派遣して始めたんですが、最初はすごくクレイジーだと村の人たちにも言われたりしました。
そのボランティアの先生は、僕の夢や目的をわかって信じてくれていたので、批判を我慢してやってくれていました。そして 2015 年 4 月には、コンクリートの校舎に作り直したんですが、この校舎には 9 つの教室があり、現在は 136 人の子供と 10 人の先生がいます。そしてこの学校で子供たちは、払える子供からは学費をもらっていますが、払えない子供や低いカーストの子供たちは、日本で里親を探して、里親に子供の学費を払ってもらっています。
「 YouMe School 」は現在は小学 5 年生までなんですけれども、 2022 年までには高校まで拡大しないといけないんです。
何故なら僕らが拡大しなければ、 5 年生まで大きくなった子供たちがまた政府の学校に戻らないといけなくなります。それはとても無責任で、その子供たちの人生で遊んでいるように感じます。それはやってはいけないと思っているので、僕らが高校 3 年生までずっと続けていこうと思っています。
「 YouMe School 」では、毎月一回必ず保護者会を開いていて、 2 年位前から始めたんですが、第一回目は14 : 00 から保護者会を開く予定があったのですが、親の方々が来たのは 16 : 30 くらいなんですね。時間通りに始まらないのはネパールではあたりまえなんですが、このままでは状況は一生変わらないので、来月から保護者会は必ず 14: 00 に開始して、誰も来ていなくてもには 15 : 00 終わらせると徹底的にしたんですね。そんなことをしていたら親の方も、「 YouMe School は待ってくれないんだ」ということで、今ではみんなぴったりに来るようになったんです。これはやっぱり、時間の約束を守るという、日本の最大の文化だと思うんですが、僕はそれをこの学校から始めようと思ってやっています。
1あと、日本の学校でもう一つ、ぼくがとっても尊敬している文化が、「自分の学校を自分で掃除すること」です。 6 歳くらいの子も、一生懸命与えられた場所を掃除しているのを見て感動したんです。だから僕の学校でも、学校の周りや中の掃除くらいは、子供たちみんなが掃除しています。それがぼくはとっても嬉しいんですね。
ライ:実はけっこう大きなビジョンなんですが、夢ってやっぱり大きな夢を持ったほうがいいんですよ、ということは僕がずっと感じていることです。
5 年の間に、僕たちは 6 つの学校を造りたいと思っています。 1 校目の学校を造ってから、その楽しさや面白さをすごく感じていて、今の子供たちみんなのお父さんみたいな感じなんです。みんなの将来、未来をみんなで一緒に作っていくことは、すごく楽しいです。
だから、今度造る 6 校の学校は、人口の多い地域、少ない地域もあるんですが、今回のクラウドファンディングで集まったお金ではネパールの大都市に 2 校目を造りたいと思っています。この学校は 2017 年 4 月にオープンすることで今動いています。
ライ:この 2 校目の学校は、 1 校目と違うことがいろいろあります。
2 校目の学校の一番の特徴は IT を中心とした学校を造ろうとしているところです。
なんで IT 中心の学校にしようとしているかというと、これから 10 年後のネパールのことを考えて、今シリコンバレーはアメリカに一つしかないんですが、 10 年後は今あるものよりもはるかに大きなシリコンバレーが中国とインドにできると言われています。ネパールはインドと中国の間にあるので、ネパールよりも地理的に恵まれている国はないのですね。だから、その素晴らしい機会を手に入れるためには、人材が必要です。
10 年後のことを考えて、ここで勉強した子供たちが IT 産業を興すようになる、と考えています。
ネパールは内陸なので物作りは難しいんです。だから観光か IT だと思うんですが、 IT なら世界中どこででもスタートは同じだから、ネパールの発展のためにもIT のスキルがある人材がたくさんいるほど、もっと発展していくことができるんですね。
ライ:そしてこの学校では、僕は日本のことが大好きなので、日本式の学校にしたいと思っています。
日本には「ふすま」という文化があると思うんですが、この学校では同じようにスライディングのドアにすることによって、教室を大きくしたり小さくしたりとできるような校舎を計画しています。
そして、この学校でもみんなが掃除をします。掃除することは日本の文化なんですが、ネパールではカースト制度があって、カーストの高い子供、低い子供の間には差別があります。だけど、「 YouMe School 」に入った瞬間にみんながカーストを忘れるような学校にしたいと思っています。
みんな「 YouMe School 」の学生、というアイデンティティをもってほしいなと。
一番上も一番下のカーストの子も一緒に掃除をすることによって、我々はみんな一緒だ、と平等にみんな気にすることなく勉強することができるようにしたいんです。
ライ:パソコン部屋も作って、必要な時にパソコンを持ち運んで使って教えることもできます。だからここの学校の子供たちはとても恵まれた子供になりますね。パソコン出来る子供ってネパールにはなかなかいないし、政府の学校の生徒だったら、パソコンを見たこともない子供たちがたくさんいます。
だからこの子供たちが、近くの政府の学校の子供たちに、パソコンを持って学校まで行って、教えてあげることもできますね。
こうして、恵まれている側は恵まれていない側に、子供のころから貢献するような場にしたいなと思っています。実はこれは糸井重里さんからいただいたアイディアなんですが、すごく面白いなぁと思って。
また、この子供たちがアプリの使い方などに詳しくなると思うので、村の現地の人たちが携帯などに関して「わからないときは YouMe School に行けばいいじゃない。」という発想になったらおもしろいなと思っています。
子供たちにはやっぱり、社会と離れてほしくない。
社会に必要なことを提供して、子供のころから社会に返すこと、恵まれている人は当たり前に社会に返す、恩返しするということができれば、ネパールのリーダーたちになっていったときに最終的には素敵な国になるんじゃないかと、そんな姿を見たいなと思っています。
ライ:里親のプロジェクトは実は半年くらい前に始めたんですが、きっかけは、当時中学 3 年生くらいの女の子が「私は中学生だからお金もないし、現地にも行けないけれど、私にできることはないですか?」と、ネパールの子供たちの役に立ちたいということをずっと言ってくれていたんですね。
僕は「学校の同級生とかを 2-3 人集めていろいろ考えてみて」と聞いてみたんですが、友達と一緒にというのは難しかったみたいで、それで僕が提案したのは「もしあなたが毎月 1000 円くらいを出せるのであれば、一人の子供のお母さんになれるんだよ」ということを言ったら、すごく喜んでくれたんです。
だけど 1000 円って中学生にとってはけっこう大きな金額なので、彼女のお母さんと1000 円を半々で出して、彼女は里親になるということになりました。
今彼女は高校 2 年生になって、里子はキソール君という子供なんですが、(写真が映し出される)この子の里親はさっきの 光紗 ちゃんですね。このキソール君にとって 光紗 ちゃんはママみたいな感じですね。
彼女にとっては、この子のことを考えることですごく精神的な成長にも繋がっていっているように思います。
日本に留学する機会を得たライさん達が、日本の良いところをならって、母国ネパールに「恩返し」するということ。そんなライさん達の活動は、希望にあふれていて周囲にも伝播し、とてもエネルギッシュに進んでいるんだと感じた。
この後も参加者の質問を受けたりしながら、たくさんの夢、構想を語ってくれたライさん。
実際に 1 校目の学校を訪問したという日本人の方の体験エピソードなども、現地の子供たちとの交流をスライドを使って紹介してくれるなど、盛りだくさんの内容となった。
(※YouMeNepal 早坂隆一さん(写真左) シャラド・ライさん(写真右))
(※YouMeNepalの1校目を実際に訪問した方からのお話も。)
日本人にとっては小さなことでも、ネパールのために出来ることがあるのではないか、と感じさせてくれた今回のトークライブ。クラウドファンディングプロジェクトは目標の支援金額を上回り成功したが、まだまだ学校を造るという彼らのビジョンは始まったばかり。
2020 年までに 6 校、未来の新しい学校を作りたいというライさんたちのことを、引き続き応援していきたい。